小ホール2(シアターウエスト)【Orphans -オーファンズ-】ワタナベエンターテイメント

  • 脚本
    ライル・ケスラー 
  • 翻訳
    谷賢一
  • 演出
    宮田慶子
  • 出演
    高橋和也 柳下大 平埜生成

「逆鱗」の当日券目当てでとっていた半日休暇だったのだけれども
そんな甘い気持ちじゃ「逆鱗」のチケットは手に入らず
(どうも2〜3時間は並ばないとだめらしい)
せっかく来たので小ホールでやっている芝居へ
「ありますか?」と聞いたら「ありますよ」と1枚ちぎってチケットを渡してくれる
席の部分が手書きの当日券
一番後方の一番端
ものすごく気楽な席でラッキー
「逆鱗」立見席3500円の出費のつもりで来たのだが
こちらは6800円
倍近いし、パンフレットも2000円と高額だったのが痛かったし
失礼な話し高橋和也さん以外のお2人を知らなかったのだけれども
演出が宮田慶子さんということに希望を抱き客席へ
プロセニアム形式の舞台で全体に黒い(暗い)
客席に座るお客さんが驚くほど若い女性が多い
こんな客席の舞台は久しぶり
なのに若い女性らが発散する「うきうき感」が薄く
ちょっと異様な雰囲気
客電が点いたまま暗い舞台上に人が現れうずくまって
床に直置きされている小さなテレビを見始める
徐々に客席と舞台の明るさが反転し舞台が見えてくる
うずくまってテレビを見ていたのは少年
頭まですっぽりパーカーを被り足元は靴紐が結ばれていないスニーカー
小さなテレビが置かれた部屋は壁紙は剥がれ
奥にあるクローゼットの扉は穴が開き
散らかった床にはソファーも机もラグもぞんざいな感じで荒廃した生活ぶりがうかがえる
こんな導入で物語りは始まる
内向的な弟フィリップと粗暴な兄トリート
2人ともASDなのではないかと思われる言動が多い
(徐々に示される不遇な生活のせいかもしれないけれど)
トリートはフィリップを支配し
乱暴なトリートを恐れながらフィリップは兄を頼りにしている
共依存な関係の閉ざされた空間が
ある夜トリートが連れてきた謎の男ハロルドによって劇的に変化する
身なりも良く、アタッシュケースには証券が詰められていたハロルドを
誘拐しようと拘束して終わった1幕終了時点では
少しミステリー的要素があってこの後どんな謎が解かれていくのか
と期待して休憩を過ごす
2幕が始まると二人の住む部屋は綺麗に整えられ
壁紙は剥がれたままで、クローゼットの扉の穴は開いたままだけれども
椅子は修繕され、机の上は綺麗に片付き、花が飾ってある
台所からは鼻歌が聞こえ
階段から下りてきたフィリップも見違えるように綺麗な身なりになっている
台所から登場したのはエプロンをしたハロルドで
ブイヤベースを作り、明日はガスパチョにしようと提案する
上質のスーツを纏ったトリートがハロルドから言いつけられた仕事をして帰ってきて
2幕が動き出す
ハロルドはトリートに自制心をフィリップには自信と独立心を
それぞれの方法で教え励まし支えようとするのだけれども
そんな時間はあっという間に終わってしまう
明るい時間なのに外へ出たハロルドは腹部に負傷し部屋に戻り死んでしまう
ハロルドに死に打ちひしがれるトリートとフィリップなのだけれども
トリートに支配されていたフィリップが
突き動かされるように
トリートを抱きしめる
ハロルドに教わった愛情の示し方なのだ
もうここで客席にすすり泣きのさざなみが押し寄せる
とても美しい脚本だったと思う
ハロルドの職業は謎のまんまだったし
死体となってしまったハロルドをどのように処理するのか
気になって仕方がないところもあるけれど
フィリップの靴紐を結ばないスニーカーと黄色いローファー
ツナマヨネーズのサンドイッチとキャベツコンビーフのサンドイッチ
トリートとの衝動との付き合い方
「デット・エンド・キッズ」を知らなくてもみた感じにさせる描き方
フィリップが好んで隠れたクローゼットに仕舞われている母親のコート類
肩を叩いて励ますこと
それぞれが抱えた寂しさ
本当にたくさんのテーマを丁寧に提示し回収していく
また、演出もとても優しい
笑わせる場面もたくさん用意してくれている
だけれども、ホントびっくりするほど客席が笑わない
私がクスっとするのも目立つぐらい
休憩時間に笑っていた人に対して
「笑ってた」って批判めいたことを言い合っていた方がいたので
「笑うな」という御触れがでていたのかも、、、
作者のライル・ケスラーがそもそも芝居の舞台となるフィラデルフィアの出身だってこともあるのだろうけれど
フィラデルフィア」の由来が「兄弟愛」だっていう事はちょっと意味深長な気がする
他にもハロルドはユダヤ系でトリートとフィリップの兄弟はアイルランド系らしい
そんなことを読み取れるならもっと階層的に楽しめる芝居だったんだろうな
翻訳劇はそのあたりが口惜しい
高橋和也さんが良いおじさん役者になっていた
安心感が漂う
パンフレットを読んでみると
以前実現しなかったが「オーファンズ」のトリートのオファーがあったらしい
そのときのハロルドとフィリップの配役は誰だったのだろうか
劇場を出るときに気がついたのだけれど
ロビーに民藝の「二人だけの芝居」のポスターが貼ってあって
そこに岡本健一さんが!
なんだか感慨深い
それぞれが励みにしているのかなと勝手に想像してしまいましたよ
若手の二人はなんて爽やかなんでしょう
しっかり演技もできていて次はどんな舞台で拝見できるのかが楽しみ
相当個性がないと忘れてしまうんですけどね、私は